1 モラハラとは?

最近増えている「モラハラ」ですが、具体的にはどのような行為を指すのでしょうか?モラハラによる被害を検討するに際してまず確認していきたいと思います。
まず、「モラハラ」はモラルハラスメントの略称であり、倫理や道徳、常識やあるべき姿を根拠として他人に対して嫌がらせ行為をすることを意味します。
厚労省では職場内でのモラハラに関し「言葉や態度、身振りや文書などによって、働く人間の人格や尊厳を傷つけたり、肉体的、精神的に傷を負わせて、その人間が職場を辞めざるを得ない状況に追い込んだり、職場の雰囲気を悪くさせること」と定義をしています。
この厚労省の定義は、決して職場内の人間関係に留まるものではなく、夫婦関係においても妥当するものですから、配偶者の言葉や態度により自分の人格や尊厳を傷つけられるなどした場合にはモラハラ行為があったものと認めて差し支えありません。
このようなモラハラとは別に配偶者による身体に対する暴力はいわゆるDVと呼ばれ、モラハラとは別途、離婚原因となります。
最近では、このようなDVは減少傾向にあり、別途、モラハラが離婚原因として増加傾向にあります。
2 モラハラの具体例
上記のように、夫婦間におけるモラハラを定義すると、配偶者の言葉や態度により自分の人格や尊厳を傷つけられた場合にはモラハラに該当することとなります。
とはいえ、このような抽象的な定義だけでは、実際に自分が受けていることがモラハラに該当するのかどうかの判断がつきません。
また、そもそも夫婦として生活を送る中で口論などケンカになることは通常あり得ることですし、そうした中で多少、ひどいことを言ったり言われたりすることもあることです。さらに、物に当たるなどの行動も同様です。
では、そうした前提を踏まえて具体的にどのような行為であればモラハラに該当するといえるのでしょうか?
以下、いくつかの具体例やモラハラの内容を一覧にして挙げてみたいと思います。これらに該当する行為があれば、モラハラの可能性を疑って、これ以上の我慢はやめて、離婚を進めることを考えても良いと思います。
(1)同居中から生活費を(十分に)渡さない。
(2)お金の使い道を必要以上に細々とチェックしたり、やたらと財産の管理をしたりする。
(3)行動を制限する(友人や会社の集まりを認めない、時間を厳しく制限する)。
(4)過剰にLINE、メール、電話で連絡を求める。
(5)アホ、馬鹿などとの言葉を頻繁に使い、その他暴言を言う。場合によっては無視をする。
(6)別居後も子供のことについて過剰に口出しをする。
(7)面会交流について過剰な要求をしてくる。
以上のような例のうち、(1)、(2)は経済的な支配(コントロール)であり、(3)、(4)は行動に対する支配(コントロール)です。(5)は精神的な抑圧行為であり、(6)、(7)も子どもを通じた支配(コントロール)そのものです。
ようするに、これらから見て分かるのは、モラハラ加害者は、加害行為を通じて相手を自分の思うように支配(コントロール)したいのです。
3 モラハラに該当するか否かの判断基準について
では、以上のような「モラハラ」の定義や具体例を理解した上で、具体的にどのような程度に至ればモラハラと認められるのかを検討したいと思います。
そもそもモラハラに該当するかどうかは、非常に微妙な問題であり、具体的にどこまでの行為があればモラハラとして違法なものと認定されるかに関しては、客観的な一律の基準がある訳ではありません。また、何をもってモラハラと言えるのかの簡単な基準もある訳ではありません。
そのため、個別の行為を総合的に判断し、必要性、相当性の有無や程度により判断するのが妥当だと考えます。
すなわち、当該状況において何ら必要性もないのに舌打ちをする、必要以上に大きな声で非難する、馬鹿にする、大きな音でドアを閉めるなどという行為があり、これが日ごろ頻繁に繰り返されていたというような事情があればモラハラ行為と認定が可能だと言えます。
また、何らかの理由で配偶者を非難する必要がある場合でも(たとえば配偶者が何か間違えをしてしまった場合)、その非難の仕方としてあまりにも長時間に及ぶ、近所中に聞こえるように非難し続ける、反省文を大量に書かせる、些細な点についていつまでも追及を続けるという行為は相当性を欠くものといえるのでモラハラ行為との認定が可能です。
このように、モラハラ行為との認定については程度問題になることが多くかつ配偶者によりされた行為が証拠に残りにくいので後日、証明しにくいという特徴があります。
したがって、その点を踏まえてモラハラ行為の該当性を判断する必要があります。
4 モラハラの証拠について
(1)モラハラの証拠の重要性
モラハラの実態やどのような場合にモラハラ該当性が認められるかを理解した上で、次に、何がモラハラの証拠となるかについて解説をします。
当事者がモラハラだといくら感じ、それを調停を申し立て、また訴訟ないし裁判で訴えても仮に証拠になるものはまったくなければモラハラ夫(妻)との離婚は実現しません。調停委員も裁判官も、証拠に基づかない主張には十分に耳を傾けてくれることはないのです。
そのため、モラハラの証拠を残すことはこの問題を解決するためにとても大切です。
(2)何がモラハラの証拠となるのか?
ところが、モラハラ行為の多くは言葉や行動によるものです。当然、言葉や行動によるものを形に残し、証拠とすることは容易ではありません。また、家庭内でのことが大半であるため、その意味でも証拠として残りにくい側面があります。
そのため、モラハラ行為が一度や数回あったという程度の証拠では弱く、継続的に長期間に渡りモラハラ行為があったことの証拠を揃えることが望ましいです。
具体的には、以下のとおりです。あくまで具体例なので、その他のものでも証拠になることはあります。
(1)録音や録画(スマホでOK)
(2)メールやLINEの文面の保存(スクリーンショットやテキストデータでの保存)
(3)自身で付けた日々の日記(日付の特定を含めて具体的に)
(4)目撃者の証言記録(子どもや家族、友人知人)
(5)モラハラ被害の相談をした相手の陳述や証言
(6)心療内科や精神科の医師の診断書やカルテ
その上で、これらのうち複数を用意するよう心掛けてください。そして、これら証拠を調停や裁判で提出し、自分の受けた被害を明らかにしてください。これらが、離婚や親権、慰謝料などについて自分に有利な結論への第一歩となります。
5 モラハラで離婚をするためには?
(1)モラハラは離婚原因になる
以上のように、モラハラを理由として離婚を求めた際には、モラハラの立証が容易でないことを念頭に置く必要があります。
かといって、モラハラを理由とした離婚が認められない訳ではありません。モラハラは、配偶者に対する精神的な暴力行為ですから、DVと同様に離婚原因となるのです。
(2)モラハラが離婚原因になるための注意点
ただし、上記のようにモラハラには立証の問題があることと、モラハラのDVとは異なるもう一つの特徴である「程度問題」という点にも注意が必要です。
すなわち、身体に対する直接の暴力であるDVは、一度でもこれがなされれば、程度の問題を問わず、それだけで離婚原因となります。
例えば、夫が妻を押し倒す、髪を掴む、頬を叩く、頭をどつくなどという暴力行為は、これらの結果、たとえ妻がケガをしなかったとしても完全に暴力行為であることは明らかです。当然、刑法上の暴行罪(刑法208条)に問われ得る行為なのです。
それゆえ、これらの行為はたった一度であっても夫婦間の信頼関係は地に落ち、それ以後は婚姻を継続し難いものとして離婚原因に該当します(民法770条1項5号)。
他方でモラハラの場合には、モラハラ行為が、配偶者に対しての暴言(「アホ」「ボケ」「こんなこともできないのか」など)や、束縛(日に何度もメールないしLINEや電話での居場所確認をする、お金の使い道に事細かに口出しをしたり、報告を求めたりするなど)、長時間の説教をするなどというものであり、常に「程度問題」が関係してきてしまうのです。
すなわち、夫婦の間で多少、口汚く言葉を発することは時折あったとしても仕方ないことなのかどうなのか、その内容や頻度はどの程度だったのか、日にどれくらいの連絡を求めたら「束縛」といえるのか、お金の使い道を問い質すことは単に家計管理の問題に過ぎないのではないかなど、いずれも程度が問題となってしまうのです。
そのほかにも程度問題以前に、そもそも口頭でのやりとりなので「言った」「言わない」の段階で問題となることすらあります。
したがって、モラハラは離婚原因にはなるものの、これを認めてもらうための準備や工夫が重要となるのです。少なくとも自身で判断をし、これはモラハラだから離婚原因になるとか、モラハラを理由とした慰謝料が請求できるはずであるなどと断定をしないようにしてください。
【モラハラとDVの特徴の違い】
・DV;一度でもこれがあれば即離婚原因となる
・モラハラ;程度問題があるのでどこからが離婚原因になるかの区別が難しい
6 モラハラと慰謝料について
(1)離婚慰謝料とこれが認められるケースについて
モラハラによる慰謝料請求は、夫婦間で、相手から受けた精神的苦痛に対する損害賠償です。そのため、モラハラによる慰謝料もいわゆる「離婚慰謝料」の一部を構成します。
そこで、モラハラによる慰謝料を検討する前提として、そもそもどうしたら離婚慰謝料が認められるのかを検討することは大切です。
ここで離婚慰謝料とはすなわち、離婚を余儀なくされた、言い換えると夫婦婚姻共同生活を破壊させられたことにより被った自分の精神的苦痛を慰謝してもらうためのものです。
そのため、離婚に至った原因が相手方にある以上は離婚慰謝料を請求して当然と考える方も少なくありません。
では、どのような場合に具体的に離婚慰謝料が認められるかですが、実務上は「離婚に至った主たる原因が一方の配偶者にある」と言えるかどうかで判断されています。
すなわち、夫婦婚姻共同生活というのは、お互いの思いやりや努力によって成り立っているところ、これをどちらか一方が壊したような場合には、離婚慰謝料を認めましょうということです。
言い換えると、夫婦関係の中では途中で波風が立つこともあるところ、お互いに至らぬところがあるような場合にまで離婚慰謝料を認めることはしないということです。
そのため、離婚に伴い慰謝料を請求したいケースはとても多く、かつこれを求める方もとても多いですが、実際上は離婚慰謝料を獲得することは容易ではありません。
以上の離婚慰謝料が認められるケースを前提に、具体的にどのような場合にモラハラによる慰謝料請求が可能かどうかについて、以下、検討します。
この点、モラハラの証拠がきちんとそろい、かつモラハラの程度も重大であり、これが離婚の主たる原因だと認められた場合には、離婚慰謝料が認められます。
たとえば、夫の妻に対する思いやりのなさ、夫の妻に対する配慮のなさ、妻の自己本位な態度、夫の妻に対する心ない発言、夫の高圧的侮辱的な振る舞い、夫が些細なことで怒るなどの言動が詳細に証明でき、認定された事例で慰謝料が認容されています。
他にも、モラハラの例としては、無視をする、暴言を吐くなども含まれます。
そして、これらの言動に対する証明の方法は、以下のようなものがあげられます。
- 会話内容などの録音、録画、LINEやメールの内容(スクリーンショットやテキストデータの保存)などの記録
- 自分で書いた日記(相手方から受けた言動、暴言、嫌がらせなどをできるだけ個別具体的に記載しておくとよい)
- 第三者の証言(家族や友人、子ども)
- 医師による心療内科などの診断書(たとえばうつ病の診断書など)などが非常に有効です。
とはいえ、(1)そもそもモラハラは証拠に残りにくいこと、(2)程度問題と考えられがちなことなどからしっかりと証拠を確保すること、集めた証拠について詳しい弁護士によるアドバイスないし監修を受けることがとても大切です。
これらをしっかりと準備し、有利な条件での離婚を実現するようにしてください。
以上のように、モラハラを理由とした慰謝料を勝ち取れる事例、もらえる事例は実はそこまで多くはありません。その上で、モラハラを根拠とした慰謝料が認められた限られた事例によれば、その額は、概ね数十万円から数百万円の範囲で認容されているようです。
かなり幅のある数字にはなりますが、モラハラの内容や期間が千差万別であること、その証拠の程度もまちまちであること、夫婦婚姻生活の状況もやはり千差万別であることなどに照らし、金額にばらつきがあるものといえます。
高額な慰謝料が認定されている事例は、証拠に基づき相当、立ち入ったモラハラ加害行為が認定されていることをご理解ください。
7 モラハラで離婚をするための準備について
以上のようなモラハラの定義、具体例、離婚原因、慰謝料相場などを踏まえ、実際にモラハラを理由として離婚をするためにどのような準備が必要かを以下、解説します。
(1)別居をする
(2)相談できる、協力してくれる味方を複数作っておく
(3)経済的に自立する
(4)モラハラ夫(妻)との連絡を絶つ
(5)モラハラの証拠を詳細に残す(集める)
(6)モラハラ以外の離婚原因を用意しておく
(7)何が何でも離婚をすると強く決意する
なお、これらのより具体的な解説は別のページに詳細を説明していますのでそちらをご参照ください。

8 モラハラを弁護士に相談、依頼するメリットについて
以上のように、モラハラはそもそも非常に抽象的な概念であること、構造上、証拠が残りにくいこと、モラハラを主張することで紛争が激化し易いこと、モラハラを主張するケースでは親権や財産分与、養育費などについても争いが生じやすいことなどいわゆる一般的な離婚の問題よりも難しい問題を多く含んでいます。
そのため、モラハラを主張し、もしくは主張されているケースではやはり弁護士への相談と依頼をご検討いただくことが望ましいといえます。