
この記事を書いた弁護士
代表弁護士 呉 裕麻(おー ゆうま)
出身:東京 出身大学:早稲田大学
2008年に弁護士登録後、消費者案件(出会い系サイト、占いサイト、ロマンス詐欺その他)、負債処理(過払い、債務整理、破産、民事再生)、男女問題(離婚、不倫その他)、遺言・遺産争い、交通事故(被害者、加害者)、刑事事件、インターネットトラブル(誹謗中傷、トレント、その他)、子どもの権利(いじめ問題、学校トラブル)、企業案件(顧問契約など)に注力してきた。
他にも、障害者の権利を巡る弁護団事件、住民訴訟など弁護団事件も多数担当している。
*近場、遠方を問わずZOOM相談希望の方はご遠慮なくお申し出ください。
*この記事の内容を分かりやすく動画で解説しています。複雑な記事の理解にお役立てください。
このコラムについて
最近は、離婚を考えるきっかけとしてモラハラが挙げられることが多く、モラハラに伴う慰謝料請求を伴う事件も増えています。
しかし「どのような場合に慰謝料がもらえ、いくら得ることができるのか」「離婚裁判や調停ではどのような証拠が必要か」といった具体的な流れは一般的にわかりにくく、不安を抱える人が少なくありません。
そこで、このコラムでは、モラハラ被害を受けた際に、どうやったら慰謝料が請求できるのか、実際にはどのような場合にはこれが認められないのか等、基本的な知識や注意点を分かりやすくまとめて解説しています。モラハラ被害の慰謝料請求を検討し、これを解決する際の参考になさってください。
1 モラハラと慰謝料について
「モラハラ」を理由とした慰謝料請求の可否を検討する前提として、まずは「モラハラ」とは何かを理解しておくことが大切です。
「モラハラ」とは、モラルハラスメントの略称であり、倫理や道徳、常識やあるべき姿を根拠として他人に対して嫌がらせ行為をすることを意味します。
一般的には「人格を否定する発言」「監視や威圧」「日常的な罵倒や非難」などの行為を指し、民法上の不法行為に該当する可能性があります。
そのほかにも、そもそもモラハラの定義は非常に幅広く、言葉による攻撃や冷たい態度、家事や育児を押し付けて一切行わないこと、勝手な金銭の制限なども含まれます。これらは被害者の人格を否定し、苦しめ、生活費の未払いなど経済的な損害を発生させることもあります。
このようなモラハラ加害行為は男女を問わず見られる傾向で、男性・女性いずれの側にも存在します。
モラハラの特徴としては、いわゆるDVが身体に対する直接間接の暴力ないし危害を指すのとは異なり、身体に対する暴力行為ないし危害を内容とはしません。
すなわち、パートナーの身体に対する暴力ないし危害がDVであり、精神に対する嫌がらせや攻撃、追い詰める行為や追い詰められた状態がモラハラだと分けて考えることができます。
そのモラハラについてですが、具体的な判断基準や、モラハラの認定を受けるために必要な証拠、モラハラの主張をする際の注意事項などについては別のページに詳細に説明していますのでご参照ください。
他方、このコラムでは、モラハラを根拠として被害者から加害者である相手に慰謝料請求が認められる場合についてまず解説をします。
その上で、実際にはどのような場合にモラハラを理由とした慰謝料が認められる可能性があるのか、また、その難しさについて解説いたします。
それらの前提として、離婚の際の慰謝料がどのような場合に認められるのか、認められる場合にはいくらぐらいが認定されているのかについても解説いたします。
2 離婚慰謝料はどのような場合に認められるのか?
(1)離婚慰謝料とこれが認められるケースについて
モラハラによる慰謝料請求は、夫婦間で、相手から受けた精神的苦痛に対する損害賠償です。
そのため、モラハラによる慰謝料もいわゆる「離婚慰謝料」の一部を構成します。
そこで、モラハラによる慰謝料を検討する前提として、そもそもどうしたら離婚慰謝料が認められるのかを検討することは大切です。
ここで離婚慰謝料とはすなわち、離婚を余儀なくされた、言い換えると夫婦婚姻共同生活を破壊させられたことにより被った自分の精神的苦痛を慰謝してもらうためのものです。
そのため、離婚に至った原因が相手方にある以上は離婚慰謝料を請求して当然と考える方も少なくありません。
では、どのような場合に具体的に離婚慰謝料が認められるかですが、実務上は
「離婚に至った主たる原因が一方の配偶者にある」と言えるかどうか
で判断されています。
すなわち、夫婦婚姻共同生活というのは、お互いの思いやりや努力によって成り立っているところ、これをどちらか一方が壊したような場合には、離婚慰謝料を認めましょうということです。
言い換えると、夫婦関係の中では途中で波風が立つこともあるところ、お互いに至らぬところがあるような場合にまで離婚慰謝料を認めることはしないということです。
そのため、離婚に伴い慰謝料を請求したいケースはとても多く、かつこれを求める方もとても多いですが、実際上は離婚慰謝料を獲得することは容易ではありません。
(2)離婚慰謝料の典型例について
他方で、離婚の原因がたとえば相手方による浮気、不倫(不貞)にある場合には、離婚に至った原因としてはっきりとしています。他にも相手方から暴力(すなわちDV)があったという場合も同様です。
したがって、これらを原因として離婚に至るのであれば離婚慰謝料の請求が可能です。
その際、たとえば浮気、不倫(不貞)があったために離婚をすることになったのであれば、おおよそ150万円程度の慰謝料が認定されることが多いです。
当然、その程度が重いほど慰謝料額は高額(たとえば300万円程度)になる傾向です。
そして、浮気、不倫によって離婚をすることになった場合には、離婚の慰謝料イコール不倫の慰謝料と考えることが可能であり、そうすると結局は、離婚により配偶者に求める慰謝料はいわゆる不倫の慰謝料と実質的にほぼ同視できます。
したがって、浮気、不倫を理由とした離婚の慰謝料は不倫の慰謝料の算定基準に基づき判断されるのが通常です。
この点、不倫そのものの慰謝料については別のページに詳細に説明していますのでそちらをご参照ください。
(3)離婚慰謝料の相場はいくらか?
以上のとおり、離婚慰謝料を認めてもらうことは容易ではありませんが、次にこれが仮に認められるとしたら具体的にいくらぐらいになるかも気になるところです。
この点に関しては、事例としては多くはないものの、数十万円から数百万円の範囲で算定されることが多い傾向にあります。
婚姻期間の長短や、幼い子どもの有無、被害の度合い、加害行為の悪質性、当事者の収入や財産状況などを総合的に考慮して計算されます。
例えば長期間にわたり日常的に人格を否定されていた場合、金額は高く認められる傾向があります。
逆に同居期間が短い、行為が限定的といった場合は少ないこともあります。
そのほか、年金分割や養育費と併せて請求する事案もあり、最終的には慰謝料の扱いは、慰謝料額と財産分与を合わせて調整されるのが一般的です。 そのため、モラハラの慰謝料を請求することを検討する際には、財産分与の額についても十分な検討や調整が重要となります。
そして、モラハラの慰謝料を検討する際には、上記のような意味で、婚姻関係を破綻させた主たる原因が相手方にあると言えるようなケースかどうかを慎重に見極めることが大切です。
3 モラハラを根拠とした慰謝料請求は認められるのか?
以上の離婚慰謝料が認められるケースを前提に、具体的にどのような場合にモラハラによる慰謝料請求が可能かどうかについて、以下、検討します。
この点、モラハラの証拠がきちんと揃い、かつモラハラの程度も重大であり、これが離婚の主たる原因だと認められた場合には、離婚慰謝料が認められます。
たとえば、夫の妻に対する思いやりのなさ、夫の妻に対する配慮のなさ、妻の自己本位な態度、夫の妻に対する心ない発言、夫の高圧的侮辱的な振る舞い、夫が些細なことで怒るなどの言動が詳細に証明でき、認定された事例で慰謝料が認容されています。
他にも、モラハラの例としては、無視をする、暴言を吐くなども含まれます。
そして、これらの言動に対する証明の方法は、以下のようなものがあげられますので、その一部をご紹介します。
・会話内容などの録音、録画、LINEの送受信の履歴やメールの内容(スクリーンショットやテキストデータの保存)などの記録
・自分で書いた日記(相手方から受けた言動、暴言、嫌がらせなどをできるだけ個別具体的に記載しておくとよい)
・第三者の証言(家族や友人、子ども)
・心療内科や精神科の医師からの診断書等(たとえば適応障害やうつ病の診断書カルテ、その他通院履歴)が非常に有効です。
このように、裁判所に提出する資料は、できる限り客観的で明らかに事実関係を裏付けるものでなければなりません。
とはいえ、
(1)そもそもモラハラは証拠に残りにくいこと
(2)程度問題と考えられがちなことなどからしっかりと証拠を確保すること
(3)集めた証拠について詳しい弁護士によるアドバイスないし監修を受けること
などがとても大切です。
男性側がモラハラを主張したものの、証拠が少ないために慰謝料が認められなかった事案もあります。精神的苦痛を感じたとしても、裏付ける証拠がなければ請求が難しいです。
これらをしっかりと準備し、対処法を確認したうえで、有利な条件での離婚を実現するようにしてください。
4 モラハラを理由とした慰謝料額の相場はいくらか?
以上のように、モラハラを理由とした慰謝料を勝ち取れる事例、もらえる事例は実はそこまで多くはありません。
その上で、モラハラを根拠とした慰謝料が認められた限られた事例によれば、その額は、概ね数十万円から数百万円の範囲で認容されているようです。
かなり幅のある数字にはなりますが、モラハラの内容や悪質性、継続期間が千差万別であること、その証拠の程度もまちまちであること、子供の有無や夫婦婚姻生活の状況もやはり千差万別であることなど複数の要素に照らし、度合いによって大きく変わるため、金額にばらつきがあるものといえます。
高額な慰謝料が認定されている事例は、証拠に基づき相当、立ち入ったモラハラ加害行為が認定されていることをご理解ください。
5 モラハラによる慰謝料の獲得は難しいのか?
さらに言うと、モラハラを根拠として徹底して慰謝料請求を求め、判決に至るケース自体が多くないという問題もあります。
少なくとも協議離婚や家庭裁判所における離婚調停といった手続きにより、合意が成立し、モラハラの慰謝料をもらえる事例というのは相当レアです。
協議離婚は当事者間の話し合い、離婚調停は調停委員を介して協議、交渉を行いますが、これらによりモラハラ加害者自身が慰謝料を支払うということは、自らのモラハラ行為を認めるのと同然だからです(モラハラ加害者は慰謝料請求を当然に拒否する)。
言い換えると、モラハラの夫や妻との婚姻生活を早く脱したいという気持ちがあるため、早く離婚できるのであれば慰謝料など求めないもしくは途中で放棄するというケースが少なくないと思います。
すなわち、モラハラはそもそもその立証や認定を受けることが容易でないこと(モラハラ的言動の特徴は、「言った言わない」という言葉の問題も少なくない)、モラハラの加害者は当然、ひとつひとつに細かいタイプが多いのでこちらが主張した数々のモラハラ行為に対しては、こちらが主張した以上に何倍にもして反論をしてきます。
それどころか、こちらの不手際を含めあることないことを調停や裁判で書き連ねてくるなどするのです。
その結果、モラハラの被害を訴える側は、調停や裁判の場を通じてさらにモラハラの被害を受ける結果となり、自分の権利を勝ち取る前に早くその状況を脱したい(離婚したい)と考えるもしくはそうせざるを得ないことが多々あります。
そのため、モラハラの被害があったことを前提に、その慰謝料を請求するかどうかは慎重に判断をする必要があると思います。
6 モラハラを理由とした慰謝料獲得のために
以上のとおり、モラハラを理由とした慰謝料は、その被害回復のために当然に必要ですし、法律も裁判所も一定の場合にこれを認めています。特に、長期間の同居生活の中で長い間続けられるモラハラ行為により、積み重なった被害は、特に深刻です。熟年離婚では、長い婚姻期間の中で積み重なった精神的苦痛が大きな争点となります。
とはいえ、証拠の問題を含めてこれを獲得するまでの道のりにはいくつかのハードルもあります。
そのため、これらハードルをひとつひとつ乗り越えて、しっかりと被害回復に向けて進んでいくことが大切です。
当然、モラハラをする相手と一人で向き合うことはとてもストレスが強いでしょうから、家族や友人などの協力や、外部の相談窓口や機関、専門の弁護士への相談が有効です。法律相談を通じて、証拠の集め方や交渉の進め方、慰謝料の増額・減額のポイントを知ることができます。
また、慰謝料請求には時効があり、一般的に不法行為から3年を経過すると請求できなくなります。調停や裁判は時間がかかるため、早めに専門家に相談することが非常に重要です。
モラハラ被害の悩みを抱えた際に、一人で解決をすることは最善策とは言えません。もし、モラハラ離婚で慰謝料請求を考えている方は、今すぐ法律相談窓口にお問い合わせください。この問題に詳しい弁護士の法律相談を通じて「慰謝料がもらえるかどうか」「減額・増額の可能性」「財産分与や養育との関係」といった疑問が解消されます。
そもそも別居によりモラハラ被害から脱し、必要な生活費(婚姻費用)の支払いを受け、親権を獲得し、養育費や財産分与などのお金の確保についてもしっかりと取り決めることは、これから先の自分や子どもの人生を考えた際にとても重要なことです。
したがって、これからの新しい生活や守るべき子どものために、何があるべき解決策なのかを慎重に検討して頂けたらと思います。
7 専門家と共に進めることの重要性
モラハラによる離婚と慰謝料請求は、感情的になりやすく複雑な問題を含みます。自分一人で対応することは困難であり、適切な証拠を集め、専門家と共に進めることが成功のための鍵です。弁護士に相談、依頼する最大のメリットは、専門家が法的知識を活用して適切な対応をしてくれる点です。弁護士を活用することで、法的に有効な手段を取り、生活を安全に再構築することができます。電話やオンラインでの予約も可能です。当事務所でも相談を受付しております。所属する豊富な実績を持つ専門家が、一人一人の事情に応じたサポートを行いますので、安心してご利用いただけます。
